NikeとAppleのトレードマークについて

 私にとって、最も魅力のあるトレードマークはアップル・コンピュータの欠けたリンゴのマークである。  トレードマークとロゴマークの機能には、通常、「出所表示」「品質保証」「宣伝広告」の3つの機能があるという。  アップルのマークの場合、出所表示機能は製品の提供者がアップルであることを示している。マークが入れば、キャノンのプリンタ、フジフィルムのデジカメ、ライセンス生産のマウスパッド、紙袋も“アップルの製品”になってしまう。品質保証機能は、MacOSの使えるコンピュータであることや、その周辺危機であることを保証してくれる。そして宣伝広告機能は、アップルとその商品を消費者や販売店に印象づけ、購買意欲を刺激するコミュニケーション機能である。  だが、アップルやナイキの場合、トレードマークはそれ以上に宗教のシンボルのような特殊なコノテーションを帯びているように思う。例えば、キャノンのOEM生産のプリンタなどにアップルのマークが付くだけで、それはアップルのモノのシリーズの一部となり、ユーザーにアップルブランドで揃えることを要求する。同じように、ナイキのロゴが一つあれば、機能的な差異があると思えないただのTシャツもモノのシリーズ一部となり、それを着る時には、ナイキのシューズを履かなければ、と消費者に思わせる。また、ナイキのシューズを履いてスポーツをする時は、ナイキのトレーニングジャケットとパンツを着て、バックやシューズケースもナイキでそろえないといけないように思えてくる。  そして、アップルやナイキのマークはユーザーを、ブランドコミュニケーションに参加させるメディアとなっている。販売店はアップルのマークを掲げて自らの価値を高め、消費者とコミュニケーションしようとする。様々な場所やメディアでアップルの製品やそれを使っている人を見かけると、それらを他とは区別して見てしまう。また、アップルやナイキのマークは、ブランドのイデオロギーやサクセスストーリーを想起させるものになっている。(アップルはマークを単色に、ナイキはブランド名を除くことでブランドイメージの更新に成功して、さらに価値を高めた。)ボディに大きなマークが付けられているiBookやPowerBookのユーザーは、アップルが想定しているようなクリエイティブで活動的な人に見えてくる。浦和レッズは、ユニフォームのサプライヤーをプーマからナイキへと変えた。現在のサッカーのユニフォームは機能的にはどれも大差はないと思うが、それ以上にナイキのマークのユニフォームを着ることで、レッズが責めの経営をするような「世界」を目指す全く違ったチームに見えてくる。  アップルやナイキのマークはユーザーをモノのシリーズの中に取り込み、(ブランド形成にはマーケッターの努力が不可欠だが)ユーザーをブランドコミュニケーションに参加させ、さらにブランド価値を高ることに成功している。そうしたことが可能なのは、製品の質に加えて、アップルやナイキのマークがシンプルかつ明確で強い訴求力を持っているからである。

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